ブルースワロー


 
 アコは、戦いの最中一人の少女と知り合った。
 その少女は重い病気を患っていたが、手術をすれば十分治るようなものであった。
しかし彼女はその幼さ故か、手術に対して恐怖心を抱き、決して手術を受けようとは
しなかった。
 そこでアコは、少女をピクニックへ連れ出す。少しでも、勇気を持ってもらうために。
 だが二人が行った山に次元獣毒ガスネズミが出現。アコは少女を守るために次元獣の
毒ガスをまともに浴び、一時的に両目の視力を奪われてしまう。
 その後毒ガスネズミは街を破壊しに行き、アコはそこに現れたラディゲの攻撃を受けるも、
駆けつけた仲間たちに救われ事なきを得る。
 そしてアコは仲間とともに毒ガスネズミを追って街に走る。追いついた五人は変身、
毒ガスネズミとの戦闘に突入する。だが、未だ視力をうしなったままのアコを、次元獣は
集中攻撃するのだった・・・
 「きゃああっ!!」
 毒ガスネズミの強力な突進攻撃を、目が見えないため為す術もなく受けるしかないブルー
スワロー。そして執拗に殴る蹴るを繰り返した後、必殺の毒ガス攻撃を繰り出す。
 「あああああーーーっ!!!」
 (くっ・・・何も、見えない!どこにいるの・・・!?)
 焦りと恐怖が、より一層視力の回復を遅らせる。それでも何とか反撃をしようと銃を構え、
耳を澄ますブルースワローであったが・・・
 「GRRRRRRRRRR・・・!!」
 毒ガスネズミは、ブルースワローの首を引っ掴み、そのまま邪魔の入らぬところへ連れ
去ろうと走り出した。二人っきりでじっくりいたぶる気らしい。
 「アコちゃん!!」
 そんなことはさせじと、ホワイトスワンが立ちふさがる。しかし。
 「きゃああああっ!!」
 毒ガスネズミ残った右手でホワイトスワンの頭を掴むと、一緒に連れ去ってしまった。
 「いやああああああああああーーーーーーーっ!!」
 「みんなーーーっ!!」
 二人の金切り声が晴天の霹靂さながらに空を切り裂く。残された三人は必死に追いかけるが
毒ガスネズミの脚はあまりにも速く、追いつくことはできなかった。

 
 「は、離しなさい!!」
 適当な場所を見つけ毒ガスネズミが足を止めると、ホワイトスワンは必死になって次元獣の
手から逃れようともがいた。
 「か、香・・・」
 一体自分たちが今どうなっているのか、そしてこれからどうなるのか。目の見えぬアコは、
迷子が母親を求めるように、香の名を呼んだ。
 「だ、大丈夫よアコちゃん。私が、何とか・・・くっ、するからっ・・」
 今自分が何とかしなければ、二人ともここでやられてしまうだろう。何としても目の前の
敵を倒し、アコを守らなくては・・・そう思う香だった。
 「GRRRR・・・」
 毒ガスネズミは、そんな香の思いなど全くお構いなしに、まずはオードブルから、という
感じで先に香を責め立てはじめた。
 「うっ、ああ・・・な、何するの・・・やめてっ!!きゃああっ!!」
 「な、何!?どうしたの香!!?」
 自分を守ってくれるはずの香の叫び声に、ますます不安と恐怖を募らせるアコ。
 毒ガスネズミは、香のスーツの肩から胸にかけての部分を、その鋭い牙で咬み破り
始めたのだ。お嬢様育ちの香は、親以外に自分の胸など人にさらしたことはなく、ましてや
相手は憎むべき敵である。その激しい羞恥心と、スーツを破られ生身をさらす恐怖とで、
もはやアコのことなど忘れて半狂乱になってしまていた。
 「いやあっ!!やめてーーーっっ!!」
 「あ、あ・・・あああああああああああああああああああああーーーーーーーーっっっ!!」
 「あ・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・かお・・・り?」
 耳をつんざく甲高い悲鳴が突然止んだ。一体どうなったのか・・・その静寂はアコをより一層
恐怖の虜にした。
 これから、お前にも同じことをしてやる・・・そう言わんばかりに毒ガスネズミは不気味な
笑みを浮かべてアコの方を見遣った。
 しかしこちらはメインディッシュ。オードブルのホワイトスワンよりも味わって食うつもり
らしい。まず毒ガスネズミはアコを壁に向かってものすごい速さで放り投げる。
 「ぐはっ!!」
 そこへまた凄まじい勢いで毒ガスネズミが突っ込んで来てショルダータックルをぶちかます。
 「あああっ!!」
 激痛にのたうち、のけ反るブルースワロー。ネズミはそのままブルースワローの頭を掴んで
何度も何度も壁に叩きつける。意識が朦朧とするアコ・・・そして最後は掴む手に思い切り
力を込める。
 メキメキ・・・
 ピシッ・・・
 パリイィィィィ・・・ン・・・
 マスクが音を立てて割れ、もはや恐怖と苦痛しか感じなくなったアコの顔が現れる。
 そして・・・
 ビリッ・・・バリリッ・・・
 ホワイトスワンにやったように、今度はブルースワローのスーツを咬み破り始める毒ガスネズミ。
 「あ・・・ああっ・・・」
 羞恥心など、感じている余裕はなかった。恐怖と苦痛。それが今の彼女の世界を支配する
全てだった。
 そして、毒ガスネズミは、アコの右肩に噛み付いた。これが・・・トドメ、だった。
 「う・・・うがああっ・・・あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 毒ガスネズミは、人間の出す産業廃棄物から生み出された次元獣だった。故に、その体には
毒液が流れている。噴射する毒ガスには、それほど強い毒性はない。苦しみはするが、死ぬような
ものではない。しかし、彼の牙から直接注入される毒は、違った。そこから出るのは、最強最悪の
毒物、ダイオキシン。人間の致死量などはるかに超えたそれを、今アコは体内に流し込まれていた。
どんなに強力なスーツを身にまとっていようとも、体内までは守れない。これにはもう・・・どう
することもできなかった。
 残りの三人を屠りに赴く次元獣の姿を、アコは薄れ行く意識の中で、ただ見守るしかなかった
・・・・・・。 

            THE  END
 

 

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