「初めから・・・私一人を狙っていたのね・・・」
 頭脳明晰なブルードルフィンには、それと戦った瞬間にそのことが理解された。
ライブマンは3人揃わないと十分な力を発揮できない。戦闘力では他の二人に
劣る自分をまず倒すことでライブマンの弱体化を図ろうというのだろう。
 

 ボルトの戦闘員が暴れている、という情報を耳にしたのは今から30分ほど前
だっただろうか。それが、三箇所、全く別々の場所だというのだ。数は、二箇所で
20人、一箇所で10人。
 自然、戦闘力の差でめぐみが敵数の少ない場所に行くことになった。だが・・・。 
 (おかしい・・・今までは常に一つの場所だけにしか現れなかったのに・・・)
 何かあるのではないか、頭の切れるめぐみはすぐにそのことに思い至った。
しかし、3人で固まって一つずつ撃破していくほうが安全ではあるが、その間に
他の場所では人々が危険に晒されることになる。正義のヒーロー・ライブマンと
して、それを見過ごすわけにはどうしてもいかなかった。
 (考えすぎよ・・・きっと)
 不安を拭おうとするかのように、めぐみはブルードルフィンへと変身し、専用の
バイク・モトドルフィンに跨り、颯爽と目的地へと向かう。
  これから自分にどんな悲劇が襲い来るかを知らず・・・


 目的地へと到着したブルードルフィンは、襲い掛かってくるボルトの戦闘員を
次々と倒していく。戦闘員10人程度では、強化スーツを着たブルードルフィンに
敵すべくもなかった。ものの5分と経たないうちに全ての戦闘員を叩き伏せた
ブル−ドルフィンは、自分の不安がただの思い過ごしであったことに安堵した。
 「ふう・・・やっぱり、ただの考えすぎだったわね。」
  だが、そのとき。
 完全に安心しきったブルードルフィンは、突然背中に激しい痛みをおぼえた。
 「あうっっ!!」
 あまりの激痛と驚きでその場に倒れ伏すブルードルフィン。何が起こったのか
理解できない彼女が背後を見やると、悠然とそれは立ち尽くしていた。
中世の騎士のように甲冑に身を包み、妖しく輝く剣を手にしたそれが、おそらく
彼女の背中を斬りつけたのだろう。
 「く・・・あああっ・・・」
 何故、こんなに痛いんだろう。
  強化スーツを身にまとっているはずの彼女は、たったの一撃でこれほどの
ダメージを負っていることにとまどっていた。今まで、強化スーツが護ってくれて
いたため、戦っていたはいえこれほどの痛みは感じたことがなかった。
 「あ・・・あなたは、一体・・・!?」
 「俺か?俺はナイトヅノー。・・・今までのやつとは次元が違う、最強の頭脳獣
さ!!」
  「最強の・・・頭脳獣!?」
 「今回の作戦は、ライブマンの弱体化だけじゃない。この俺の性能テストが
目的でね・・・その実験台にブルードルフィン、貴様が選ばれたのだ。光栄に思え!」
 「く・・・実験台、ですって・・・?」
  やはり・・・戦闘員の数が一箇所だけ少なかったのも、すべて自分を罠にはめる
ためだったのだ。だが、気づいたときにはもう遅かった。彼女はもはや完全に
抜け出すことのできない罠にかかってしまっていた。
 「あなたたちの作戦どおりになんか、行かないわ!」
 体を襲う激痛に耐え、何とか立ち上がったブルードルフィンは、敵めがけて
パンチを繰り出す。しかし、当たってもナイトヅノーはビクともしなかった。
何度もパンチ、キックを撃つものの、その硬い鎧の前に一切通じている様子は
なかった。もともとが、戦闘などとは縁遠い、ただの学生だったライブマンである。
しかも、彼女は非力な女性であった。いかに強化スーツで強化されていようと、
最強の頭脳獣にとっては蚊ほども感じないのであった。
 「ライブマンといっても所詮は女。俺の敵ではない!!」
 ブルードルフィンのみぞおちに強烈な拳が食い込む。
 「うああっ!!!」
 あまりの衝撃に数メートル後ろへ吹っ飛ばされたブルードルフィン。
  「うう・・・がはっ!ごほっ!!」
 どうやら、肋骨の何本かは折れて、いや粉々に砕かれてしまったらしい。また
しても、感じたことのない激痛が彼女に襲い掛かる。だが・・・
 「こ・・・んなところ・・・で、やられるわけには・・・いかないわ!!」
 不屈の闘志でボロボロの体を起こしたブルードルフィンは、腰のビームガン
ライブラスターを抜き放ち、敵に向かって浴びせかけた。
  「はっ!!」
  「馬鹿め!!こんなものが効くか!!」
  ライブラスターから放たれた閃光は、ナイトヅノーの鎧に触れた瞬間、それを
破るどころか、放ったブルードルフィンめがけて跳ね返ってきた。
 「きゃああーっ!!!」
 実際、ライブラスターはかなり強力な武器であり、皮肉にも彼女はそのことを
身をもって体験することになってしまった。だが、それすらも奴には効き目がない。
 「うう・・・あっ・・・ま、だよ・・・まだ、やれるわ・・・」
 それでも決して諦めないのが正義のヒロイン、ブルードルフィンだった。
ビームガンが効かないならと、ライブラスターをソードモードに変えてふたたび
撃ちかかる。
  だが、彼女の剣を、ナイトヅノーは今度は全く受けようとせず、すべてを紙一重で
かわしていく。
  「たあっ!!」
 「はーっ!!」
 どれだけやっても、かすりもしない。そうしているうちにもブルードルフィンの
相当損傷した体から、少しずつ力が失われていく。もはや、当たったとしても
傷すらつけられないかもしれない・・・少しずつ、しかし確実に、諦めないはずの
正義のヒロインを絶望が蝕み始めていた。
 「く・・・ううっ」
 彼女が力なく剣をふりかぶった、その一瞬。
  バキイィィィン・・・
  左下から右上へと斬りあげられたナイトヅノーの妖剣が、ブルードルフィンの
剣をいとも簡単に、まるで細い棒きれか何かのように叩き折った。そしてそのまま
返す刀で袈裟懸けにブルードルフィンの体に斬りつけ、もう一度、今度は
左上から袈裟懸けに斬る。
 「あ・・・あ、あ・・・」
  あまりの激痛に、もはや感覚が麻痺してしまった彼女は、叫ぶことすらできずに
その場に倒れこんだ。
  強化スーツが煙をあげている。もはや次の一撃に耐えることができないのは
明白だった。その強化スーツ・ライブスーツは、めぐみたちが長い時間をかけて
完成させたもので、彼女はそれに絶対の自信を持っていた。それが、まさか
たったのニ撃で使い物にならなくなるなんて・・・
 肉体的な痛みだけでなく、激しい精神的ショックが彼女を襲う。
 だが、それでもまだ、彼女の精神力を打ち砕くに十分ではなかった。
  ブルードルフィン最強の武器、ドルフィンアロー。まだ彼女にはそれが残されて
いたからだ。ドルフィンアローに貫けないものはない。そう、彼女は思っていた。
そして彼女は弓を取り出すと、最後の力を振り絞って空中高くジャンプし、矢を
放った。
  「ドルフィンアロー!!」
  しかし・・・
  「ふん!!」
 ナイトヅノーの剣の一閃が、矢を真っ二つにしてしまった。
  「そ・・・んな・・・ドルフィンアローまで・・・」
 すべての攻撃を封じられ、完全に戦意を喪失してしまったブルードルフィンは、
ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
  そんな彼女に、無常にも妖剣が振り下ろされる。何とか持っていたドルフィン
アローで防ごうとする彼女だったが、そんなものが彼の妖剣を防ぐ手立てになる
はずもなく、あっさりと真っ二つにされてしまう。
 「ああ・・・ドルフィンアローが・・・っ・・・!」
  「馬鹿め・・・武器の心配などしてる場合か!」
 「え・・・あ・・・っ?」
 妖剣が叩き斬ったのは、ドルフィンアローだけではなかった。彼女の頭部を
守っていたヘルメットが割れ、絶望に打ちひしがれためぐみの顔があらわになる。
そしてその額から、真紅の液体が大量に流れ落ちる。ヘルメットを斬られた
ときに、額も割られていたらしい。
 「あっ」
 多量の血が眼に入って視界を一瞬奪われためぐみの前から、ナイトヅノーの
姿が消えていた。
 「!?・・・!!?」
 恐怖にかられて必死にあたりを見回すめぐみ。
  「きゃああっ!!」
  突然、背後から左手首をつかまれ、引っ張りあげられためぐみ。宙ぶらりんに
なってしまったこの状態では、もはや抵抗することすらかなわなかった。
  妖剣が、めぐみの首に押し当てられ、すこしだけその肉を切り裂く。そこからも
また、赤いものが流れ出る。
  めぐみは、目を閉じた。体は小刻みに震えている。もう、終わりだ。めぐみは、
完全に心を砕かれてしまっていた。彼女の心にはもう、恐怖と絶望しかなかった。
 「安心しろ」
  「・・・?」
  「ここで殺しはしない。」
 「!?・・・どういう・・・こと?」
  もしかしたら・・・助かるかもしれない。ほんの少しだけ希望をとりもどしためぐみを
あざ笑うかのようにナイトヅノーは続けた。
  「貴様を、ボルトの人体実験の実験台にするため、生かして連れ帰れとの命令だ」
 「人体実験の・・・実験台・・・!!」
 「おそらく、ここで俺に殺された方がマシだったと思うくらいの凄惨な目に遭う
だろうな・・・くくく・・・」
  「い・・・や・・・」
  「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
  ボルトの手によって破壊され、人も逃げ去り誰もいなくなった街の一角で、
さらなる恐怖と絶望に包まれた女の悲痛な叫びがこだまする。 
 勇敢な戦士から恐怖に打ち震えるかよわい女へと堕ちためぐみの、救いを
求めるその声は、遠く離れた場所で戦う仲間たちの耳に届くことはなかった・・・

これより後、ライブマンは何とかボルトを倒すことに成功する。だが、
めぐみを欠いたことは戦力的に大きく響き、それは3年もの時間を必要とした
のだった。この後3年、めぐみは過酷な責めに苛まれ続けることになるのである・・・。



            THE  END
 


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