スーツ差分1スーツ差分2

そこは黄昏時のような色の空間だった。
まさに「空」間。黄昏色以外には何も無い、そんな空虚な場所。
右も左も分からない、立っているはずの地面さえまともに認識できぬ、
ただただ黄昏、黄昏、黄昏。
そんなどこまでもどこまでも単色で塗り固められた、常人なら、いや常人でなくとも
気の狂うしかないような虚無の中に、ぽつねんとそびえる3つの影があった。
一人、いや一柱は呪いの女神アスクラヴィス。
もう一人は、英雄・”剣聖”セシリア。
最後の一人は、その”剣聖”に相貌が酷似した若い男だった。
体格はまさに男のそれであったが、その顔はかつて絶世の美女と謳われた若き日の
セシリアと瓜二つであった。
彼の名はシグルド・ミルディン。まぎれもなくセシリアの血を分けた息子であった。

「やっと認めましたね…俺があなたの子だと」
「う、うう…」
セシリアは呻いた。
黄昏の虚空より伸びる無数の茨が彼女の、相応に年齢を重ねてもいまだ美しさを保った全裸の肉体を
きつくきつく縛り上げ、おびただしいトゲがその白い肌を無惨に引き裂き赤く染めている。
その様な無惨な状況の母を見て、息子は嗤った。心配するどころか、どこまでも冷たく嘲笑った。
「こんなでも、いやこんな状況だからこそあなたは、興奮しているんでしょう?」
ククク…とその絶世の美女の生き写しの端正な顔が醜く歪む。
「聖女…英雄…聖司卿…そんなあなたを崇拝する人間はこの世に星の数ほどいますが…
どう思うでしょうね?あなたがこんな状況で性的な興奮を覚えるような畜生にも劣る変態だと知れば」
「うぐっ…!」
セシリアの身体が突然震え、そのことによって肉に食い込んでいた茨のトゲがさらに彼女を傷つけた。
その苦悶に飛び出てしまう声を彼女は抑えることができなかった。
「あははは、息子さんに変態と罵られてゾクゾクしましたか?やっぱりとんだ変態ですねあなたは!」
女神は厭らしく笑う。その声にまたセシリアは反応する。それによりさらに皮膚が切り裂かれる。
だが反応したのはセシリアだけではなかった。
「ぐ…あんたの声を聞く度に身体の動きが鈍るな…何だこれは?」
シグルドは尋ねる。背後で高みの見物を決め込んで笑いながらただただ状況をながめている、
邪悪な女神に。そして女神は微笑みで応える。邪悪でどこまでも厭らしい、しかしどこか艶かしい微笑で。
「それこそが、あなたがそこの母上の血を引いている確かな証拠ですよ」
「どういうことだ?」
アスクラヴィスは語った。十二神子の長子であり、セシリアのミルディン家の始祖である戦女神ケイロンを
かつて捕らえたこと、そこで永劫ともいえる長い時間苦痛と屈辱を与え続けたこと、それによって
植えつけられたアスクラヴィスへの決して拭い去ることの出来ない恐怖と絶望を、子々孫々永遠に受け継ぐ呪いを、
そして過酷な運命を与えられるという呪いをかけたこと…
「ミルディン家でも男性にはそれほど呪いは受け継がれていないようですが、多少はあるようですね。それがその
『動きが鈍る』の正体でしょう、ただ、女性はもろに受け継ぐようですね。歴史上、非業の死を遂げたミルディンの
女性は数知れません」
「呪い…」
シグルドは自らの手をじっと見た。それから苦悶の声を上げる母を見る。
「それはいい。くく、最早否定の仕様が無いな…くくく…はははっ!!」
シグルドははじめ声を抑えていたが、抑えきれなくなったかついには高笑いを始めた。だが、その顔は少しも
笑っていなかった。
「その『過酷な運命を与えられる呪い』とやらの力なのだろうな…この俺が生まれた…いや生まれてしまったのは。
なあ、母上!?」
「あぐ…っあ!?」
彼はいきなりセシリアの両乳首を指で挟むと、そのまま持てる力の全てを込めるように、引きちぎってしまえとばかりに
強引にそれをねじり上げた。
「あっ…あっあっ…!ぎ、ぁ…っ!!」
もともとかなり感じやすい乳首を持っていたセシリアは、その虐待に耐え切れず身を仰け反らせる。それがまたしても
茨のトゲの餌食となる結果をも招く。
「シグルド…憎い…のね、私…が…」
息も絶え絶えに、母は息子に話しかける。後ろめたいことでもあるのか、その目は息子の目を直視してしなかった。
「憎いか…?ははっ、面白いことを言うじゃないか」
対照的に、息子は母の目を燃え上がるような瞳で真っ直ぐに睨みつけた。
「あんたの都合で、実の息子の俺は養子なんてことにされて育てられた。だが成長するにつれてあんたにそっくりに
なっていく「養子」のはずの俺を、周囲がどんな目で俺を見ていたか、知らないなんてことはないだろうな?」
シグルドは母の乳首を摘む手に更なる力をこめる。またしても母のうめき声がもれるものの、息子はそれを無視して続けた。
「誰よりもあんたを敬愛していた…あんたは俺の全てだった。そのあんたに…」
怒りのままに、憎しみのままに彼は母の乳首をいたぶる指の力を限界の限界まで高めていく。
「ぎゃあ、あっ…!」
「生まれたときから否定されてきたと知った時の俺の気持ちが…あんたにわかるか!なあ!?」
彼の憎悪が最高潮に達した、その瞬間。
「ぐっ、ぐぎっ!?があ…っ…げはっ!!ぎゃああっ!!!!」
それまでの、「耐え切れずにうめき声が漏れる」という状態から一転、セシリアは絶叫し激しくもがき始めた。それは
当然のことながら更なる裂傷をその皮膚に与える結果となった。
突然のことにいぶかしむシグルドに対し、背後の女神が説明を加える。
「これが今回私が用意した呪いです。あなたの想いが高まれば高まるほど、この茨は強く強く彼女を締め付けるように
なっているのですよ。どうです?シンプルでしょ?ふふ」
女神は少女のように、無邪気に、かわいらしく微笑んだ。もちろんそれは見る者を戦慄させる圧倒的なおぞましさを
孕んでいたことは言うまでも無い。まして彼女の呪いを先祖代々受け継いできたセシリアとシグルドには
見るに耐えないものであった。とはいえ、呪いの程度に差があるため、シグルドはとても正視できない、という
程度だったが、歴代で最もケイロンの血を強く受け継いでいると言われ、それが故に彼女の受けた呪いをも最も色濃く
受け継いでしまったセシリアはといえば、全身の血が逆流するかというほどの恐怖を感じ、もし一度嘔吐してしまえば
身体の中の穴という穴、口や鼻はもちろん耳や、目、毛穴という毛穴、すべてから、体中の全ての液体が漏れ出して
しまうのではないかと思われるほどの尋常ならざる吐き気を覚え、一時的にだが意識をほとんど喪失してしまっていた。
「さあ、見せてください。あなたがどれほどこの女を憎悪して…もしくは愛しているのか、をね。ふふ」
「愛しているのか…ね」
相変わらずの嫌悪感を催す女神の微笑を見ないようにして、シグルドはつぶやいた。そして。
「ぐぶっ!?」
硬い拳が、茨に締め付けられ苦悶するセシリアの腹部にめり込んだ。
「そうだな…愛しているよ、俺はこの女を。育ててくれた義理の母として、そして…女として、な」
「シグ…ルド…げはっ!」
二発、三発とシグルドの拳がセシリアの腹に突き刺さる。しかし、それだけではない。シグルドが力を込めて
セシリアを殴りつけるたび、呪いの茨がセシリアの肉体を強く締め付ける。その度にまたしてもトゲが深く深く突き刺さる。
「げぇ…あ…」
「知ってるよ…俺は前の大戦で、あんたが敵に犯されたときに出来た子だった。だから家名を傷つけないために、あんたは
俺を友人の子として養子にした…だよな?」
息子の憎しみの目が母を突き刺す。その度にどんどん茨の締め付けが強くなる。
「あぐぅ…あっ…!」
「ずっと血が繋がらない母親だと思ってた。だからこそ、いつしか女として意識するようになってた。
もしそうでなかったら…あんたを女として見たりはしなかったかもな」
「ぐ…ぅーっ…!!」
「どれほど苦しかったか。義理とはいえあんたは母親だ。そんな想いが許されるはずがなかった」
「や、め…ぐあっー!」
「それでもまだ、そんなことを考えるのは血がつながらないからだと自分に言い聞かせて、こんな思いを持ってしまう自分を
正当化してきた」
「げふ…がは!」
「それがどうだ…実は本当の親子でしたと…クク、笑っちまうじゃないか」
「うう…」
「あんたが俺を否定しなければ…ちゃんと自分の子として育ててくれていれば、こんな思いをすることもなかっただろうにな。
なあ!?」
「うう…ううぅ〜…」
一撃ごとに締め付けは段々と強くなっていく。茨は肉の間にめり込み、骨をも砕きかねぬほどに強く、強く締まっていく。
それはすなわち、シグルドの感情が高まっているということでもあった。それは憎しみか、それとも歪んだ愛情か、
あるいはそのどちらもであったのか。
「家…名のことは…考えなかったわけ…じゃない…で、も…うう…っ」
息も絶え絶えにセシリアは語り始める。その声は苦痛によりかなりかすれてとても聞き取りづらいものだったが、
それでも彼女は必死に声を絞り出す。
「あな…たに、背負わせた、くなか…った。あなた…の出生の、こと…知れば、きっと、傷つ…ぐうぅーっ!」
最後まで、彼女は言葉をつぐことができなかった。締め付けが突然それまで以上に、凶悪と言っていいほどに、
まさに突然強力になったためだ。それを眺めて、シグルドの瞳に妖しい翳りがさす。
「出生の秘密…ね。くく、そりゃあ知らせたくはないだろうなぁ、何せ…」
瞳にさらなる昏さを宿し、シグルドは言い放つ。
「俺の”父親”は…魔石の力で子を作る力を得た女…、なんだって、な?」
「っ!!?」
息が止まるかと思った。実際セシリアはしばらく完全に呼吸を忘れていた。痛みすらも忘れた。
かつての戦いで敵に犯された故に孕んだ子。それが口さがない宮廷の人々の噂に上っていたのは知っていた。
実際にその通りであったし、それだけなら恐らく、わざわざ彼を他人の子を養子にした、などという方便は使わなかっただろう。
そうなのだ。
彼こそは、魔石、ダークマターの力により、男性の生殖器をその身体に宿すことに成功した女性…すなわちかつて魔女王の配下、
”黒の騎士”の一人としてセシリアを苦しめ続けた、かのバルバレラ・ヴェルトマーの遺した子であったのだ。
セシリアはかつての戦いで彼女に敗北し、拉致された挙句、救出されるまでのおよそ一月ほどの間陵辱の限りを尽くされた
ことがあった。
バルバレラが男性器を宿したのは別にセシリアを孕ませようなどと思ったわけではなく、ただ自らの肉体でセシリアを
貪りたいという欲望の故であったが、その結果としてセシリアはその胎内に子を宿すこととなった。
しかも、この時点で既にありえないことだが、ここでさらにまだ、通常ではありえないことが起こった。
魔石により生まれることとなったその子どもは、母の体内でその魔力を食らい、何とたったの数週間でこの世へと
這い出てくることとなったのだった。魔力を吸い尽くされた母体は、回復するまでの数日間、ミイラのように干からび
生死をさまよったほどだった。生まれた後は普通の子どもと同様に育ったが、やはり彼は通常の人間とはいえない存在だった。
「シグル、ド…どうして、知って…」
かすれた声がさらにかすれて出なくなる。彼女は完全に打ちのめされていた。
「全部教えてもらったんだよ、そこの女神さまにな」
ぞんざいに後ろの女神を指差して、彼はいやな笑いを浮かべながら続けた。
「魔石の力で生まれた、本来ならありえない存在…まさに呪われた子そのものじゃないか。全く、笑える話だな」
ククク…と乾いた笑いをたてるものの、その目は勿論少しも笑ってはいなかった。
「ごめん…なさい…」
セシリアはもはやほとんどまともに出せない声を必死に絞り出した。
「あなた、に…だけは、そのこ、と…知られるわけには…どれほど、衝撃、をうけ…るか…うう…ぅ…」
その間にも茨は彼女の肉体を締め付け続ける。その度に言葉は途切れ、ほとんどまともに聞き取ることの出来ないものに
なっていた。
「本当の…子ども、として育…てれば…うっ…ぐぁ…。呪われた子、として誰、からも…祝福されない、と
思ったわ…だ、から…ぐ、ううーっ…!」
メキメキ…とセシリアの体がきしむ音が周囲にも響く。茨はまるで大蛇のように強靱に、その熟れた肉を喰い破り骨をも
断ち切ろうとしていた。それでも母は言葉を止めない。それは母としての責務からか、それとも長きにわたり欺き続けてきた
我が子への罪悪感がそうさせるのか。
「たとえ誰の血を継いで、いても…どんな、生まれ方を、したとしても…ああっ…呪、われた子、だって…がふっ…
あ、あなた、は私、の子…だから、だか…ら…私の側、で育てたかっ…ぐぎゃあああっ!!!!」
かすれにかすれてまともに出せなかった声が、その瞬間大音響に変わった。
両の手首、足首を縛っていた茨が突如凄まじい力で引っ張られたのだ。肩や、股の関節が悲鳴を上げ、ブチブチと肉が
少しずつ引きちぎれていくような音がする。首を激しく振り、死力を尽くして逃れようとするも、状況が改善することはみじんもなく、
寧ろほかの茨がどんどんどんどん彼女を絞め殺そうと、いやそれどころかその力でねじ切り、粉砕しようと攻勢を強める。
「あんたが…」
シグルドはだが、そんな母をさらに苦しめる、冷たい言葉を容赦なく言い放つ。
「そんな半端な愛情を俺に向けたせいで、俺はこんなにも苦しまなくちゃならなかったんだ…!仇の子なんて殺してしまえばよかった…
それが嫌なら孤児院にでも預ければよかったんだ!それを、あんたが…」
「シ、シグル…ド…!ぐあ…あ…」
シグルドの感情の高まりに合わせて締め付けはなおも強くなる。そしてそれは、いよいよ最高潮に達しようとしていた。
「あんたが、俺を地獄に突き落としたんだ…俺なんて、生まれて来なければ、あんたが生まなければ、こんな苦しみを
味わうこともなかったんだ!!」
「う、うう〜…っ」
その瞬間、セシリアの目から涙があふれ出た。
体の痛みのせいではない。例え世界で最も憎しみを抱いた相手との子どもであろうと、半ば人間ではない化け物だろうと、
自ら腹を痛めて生んだ、彼女にとっては愛しい愛しい我が子に違いなかった。愛する夫との間に生まれた娘リフィルと、愛情に何ら
分け隔てなく育ててきたつもりだ。彼のためなら、自らの身など少しも顧みるところではない。
だが、その息子に、今全てを否定された。生まれてこなければ、と自らの存在を全否定するその言葉、それはそのまま彼女に対する
否定に他ならなかった。これまで注いできた深い愛情も、ともに過ごした日々も、その全てを。母として、これ以上につらいことなど
この世にありはしなかっただろう。
最早体の痛みも忘れ、セシリアは我を失っていた。
すでにその肉はいまにも引きちぎられそうなほど引き絞られ、破れた皮膚から血液が止めどなく流れ落ちている。その上で、
茨はさらに強く強く締め付けてくる。
が、もはやセシリアは何の反応も示さなかった。あまりに精神の衝撃が大きかったのだろう。彼女の目は虚空を見つめ、しかしその瞳に
何も映してはいなかった。
「やれやれ、せっかく盛り上がってきたところなのに、さっきので意識が飛びましたか」
背後で嫌らしい笑みを浮かべつつ状況を傍観していた呪いの女神が、見かねて口を差し挟む。
「何しても無反応じゃあつまらない。ここはちょっと締め付けとは違う刺激をあげましょうか」
アスクラヴィスは仕方なし、といった感じの動作で(実際のところ内心ではかなり楽しんでいるのだが)
セシリアを指さした。その指の先にあったのは、股間あたり。そこへ、虚空から突然茨が高速で伸びてきたかと思えば、そのまま
股の間を通って、反対の虚空へと消えていく。
「さあ、まだまだ足りないでしょう。もっとその女を苦しめなさいな。フフフ…」
「フン、お前に言われてするのはシャクだがな。そもそも俺のような呪われた子が生まれたのも、お前が先祖にかけた呪いのせい
なんだろうしな…」
苦々しげにシグルドは反抗してみせる。それに女神は笑って答える。
「ええ、そうですよ。あなたのようなのが生まれたのはすべて、歴史上最もケイロンの血を色濃く受け継いだおかげで、最も強く
私の呪いをも受けてしまったその人に向けられた、その人を苦しめるための呪いの賜物です」
「チッ、ずいぶんとあっさり認めたもんだな」
「神が人間に何を隠す必要があるんでしょう?ふふふ…結局、あなたが苦しいのは全部この人のせいってことになりますね。
あ、ちなみに妹さんはケイロンの力は大して受け継いでいないのに、受けた呪いだけはこの人より強いんですよ。それも全部この人を
苦しめるための呪いってわけですね〜」
子の苦しみが親にとっての最大の苦しみってことでしょうか、などとケタケタと笑い声を上げ始めた。
それは結局全てお前のせいだろうが…と思ったが、シグルドは言葉には出さなかった。
そんなことはもう、どうでもよいことだった。今はただ、目の前の女をどういたぶるか、それで心は一杯だったからだ。
シグルドはセシリアの股間に渡された茨を握った。当然ながらそれは自らの手を傷つけることになるが、そんなことさえもう
気にならない。興奮が、昏い悦楽が支配する彼の脳にはもはや、セシリアが世界の全てだった。いや、そもそも彼にとっては世界とは
はじめからセシリアしか存在しないものだったのかもしれない。
「バルバレラって人は、あんたに異常に執着してたんだってな」
茨を握る両の手を挙げ、セシリアの女性器、および肛門にトゲが当たるように位置を調節する。掌から滴り落ちる血が母の体から流れる血と
混じりあう。彼はそれを恍惚とした表情で見つめた。
どれほど悪態をつこうと、憎しみを持とうと、彼にとって母セシリアはどこまでも神聖なる存在だった。彼にとって「女神」とは、
主神メリュジーヌでも、聖女王ゼノビアでも、まして後ろの呪王などでありはしない。それはただひたすら、セシリアのためにある言葉
だったのだ。その神聖な血を、自らの呪われた血が穢していく。それは彼の心を歓喜で満たした。
「俺もその血を受け継いだんだろうな。あんたの泣き叫ぶ声が…苦痛に歪むその美しい顔が、どこまでも俺を満たしてくれる。
俺は歪んでる…当然だ、何といっても俺は、呪われた子なんだからな」
なおも明後日の方向を見つめ続ける母に、息子は一切の容赦をしなかった。股間の茨を強く握ると、それを猛スピードで前後させ始めたのだ。
乳首と同様、他者よりかなり感じやすい性質の性器の持ち主だったセシリアは、その乱暴すぎる愛撫の前に心を閉ざし続けることが
出来なかった。
「あ、あはぁ…っん!!?」
彼女は、かつての大戦の折、仲間達の誰よりも敵から犯され傷つけられ、死の淵にも何度も立たされた。それは結局のところアスクラヴィスの
呪いによるものだったのだろうが、その過酷さに彼女の気高い精神も耐え切れず、自己防衛本能が働いた。それこそはすなわち
「苦痛を快楽に変える」ことであった。そうしなければ、彼女は生きることが出来なかったのだろう。
それ以来、許容を超えた痛みを与えられると彼女は「飛ぶ」ようになった。その後遺症で、壊れた心が今に至るもなお苦痛を求め続けるように
なったのだった。
先ほどまでの締め付けは、彼女に激烈な苦痛を強いていたが、同時に猛烈な快楽をもたらしていた。実は血と混じり股間からは愛液が
あふれ出していたのだ。しかしまだそれは彼女にとって許容範囲内だった。それが、この性器と肛門への新たな刺激により、完全に
超えてしまった。それにより、消失していた意識が逆に戻ってきてしまったのだ。
「さっき言った言葉は訂正するよ、母上、いや…セシリア」
わざわざ母上と言った後で名前を呼びなおしたのは、お前はもう自分の女だと、母に対して宣言したかったからだろう。
「シグ、ルド…あ、はっ…」
セシリアの方もそれを敏感に感じ取ったのか、セシリアと呼ばれた瞬間に身体を痙攣させた。
「俺を生んでくれてよかったよ…」
「う、うあ、あはっ…」
締め付けはさらに強くなる。シグルドの腕の振りもさらに速さを増す。それが更なる苦痛を生み、そして快楽へと変じる。
「そのおかげで、俺はこうしてあんたを俺のものに出来るんだからな…ははっ!」
「あなた、の、もの…あああっ!!」
止め処なくあふれ出る愛液、漏れでる嬌声。
「そうさ…これからあんたを、俺の女にするんだよ」
「俺の女…な、何てこと、を言っ…て…んん〜っ!!あっあっ…」
母である自分が息子の女に…貞淑な妻であり、厳格な母である彼女にとって、それは絶対に許すことの出来ない背徳であった。
だがだからこそ、彼女の壊れた心はそれを渇望した。俺の女といわれた瞬間に、怒り、悲しみ、絶望、そしてそれらよりはるかに強い
快感と幸福感とが彼女の心を満たした。
「まんざらでもないって顔してるな。女神のごとく人から崇拝されてるあんたも、一皮向けばとんだ淫乱だったってわけだ」
シグルドは股間の茨を外してアスクラヴィスに目配せする。女神がうなづくと、股間の茨が消え、後には血まみれでボロボロに擦り切れた
熟れた女性器が残った。ここからすることなど、もう一つだけだろう。だが、これほど無惨に切り裂かれた女性器に対してそれを
行えば、女はどれほどの苦痛を味わうことになってしまうだろう。
「行くぞ…!」
勿論そんなことは彼には関係ない。いや、むしろそれこそが望みだ。躊躇う理由はどこにもなかった。
「やめ、やめてシグルド…!お願い、だから…!!」
言葉では必死に抵抗する素振りを見せる母だったが、その抵抗には力がこもっていなかった。いや、それは彼女にとって真剣に避けたい
事象であったのは間違いないし、その言葉は本心からのものだっただろうが、それは彼女の心の一面にしか過ぎなかった。
壊れてバラバラになった心のうち、最も強いのは結局快楽を求め続けるそれだった。故に言葉ではどんなに抵抗しようと、
結局心の深層では快楽に溺れ、肉体を支配されてしまう。思えば大戦後のこの19年というもの、必死に抑えていたものの、月のうち何日かは
尋常でない性欲に支配され貪るように快楽を求め続けてきた。歳を追うごとに、それは和らぐどころか激しさを増し、新たる神々との大戦の
始まったここ最近ではほとんど毎日のように夫に懇願し、自らをいたぶってもらいその欲望を満たすようになった。
その壊れた心が、歓喜に震えているのが分かる。この先に踏み込んでしまえば、決して戻れない。彼なしでは生きられない身体になってしまう。
それは彼女にとって何をしてでも忌避すべき事柄であり、同時に何を犠牲にしてでも手に入れたい最大の望みであった。
「う、ぐ…はああ〜〜〜っ!!」
そしてついに、その瞬間は訪れた。太い太い、息子の「男」が傷つき潰れた母の「女」に突き刺さっていく。
母はこの世の終わりとさえ思えるようなとてつもない絶叫を上げながら全身を激しく痙攣させる。息子もそれに呼応するかのように、
それ以上の激しさで腰を振り続ける。
それはもはや人の姿ではなかった。歪みに歪んだひとつがいの獣たちが、互いを求め貪りあう。正直まともな人間が見れば嫌悪感しか
催さない、最低の見世物だった。だが…だが当の獣たちは幸福と充足感に満たされていた。誰もそこに、入り込む余地などありはしなかった。


「全く、汚らわしい連中だな、必死に庇いあっていたあっちの母娘とは大違いだ。ふふふ…」
ひとしきり獣たちの情交を眺めて楽しんだ後、アスクラヴィスは彼らに背を向け歩き出した。
「ここは私の作った空間、ここでは私がことわりそのもの。私がそう決めたからには、ここではお前達は歳も取らず死ぬことも無い。
ここで永遠に貪りあうがいいさ、どこまでもいやらしいケダモノども。ふふふ、あーはっはっ!!」

女神の嘲笑はしかし、獣たちの嬌声にかき消され、黄昏の虚空へと消えていった。





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