かつて自らの命より大切だと思っていた愛弟子。しかし最早彼女にとってそれは、何の価値もないゴミ。
記憶を消されたわけではない。全ての思い出は、今でも思い出そうとすれば鮮明に浮かぶほど心に
刻み付けられている。それでもなお、彼女はもうそれらに微塵も価値を認めない。
だらしなく舌を出し、汚らしく涎や涙、果ては小便をも垂れ流し、少しづつ力を失っていく
リフィルの様子を、大した興味もなさそうに彼女ーかつてシエラだったものが眺める。
しかしその殺害者もまた死に瀕していた。
彼女の着ている黒く輝く衣服の裏には、びっしりとトゲが突き出ていた。そして、そのトゲの先端には
猛毒が塗られていたのだった。猛毒に冒され、身体は生きながらにして腐りはじめていた。
”不死王”エルムガンドの呪いにより、彼女は不死の身体にさせられた。ただ、不死と言っても死なぬわけではない。
死んでも必ず復活する。そういう意味での不死である。
彼女は、復活するたび服のトゲに身体を傷つけられ、そこから直接猛毒を体内に注ぎ込まれる。
出血と猛毒により、彼女は常に高熱を発し、意識も朦朧としている。そして、血を失い、魔力を失い、身体は腐り果て
30分で死に至る。そして、完全な状態で復活する。
その状況を、彼女はこの上なく幸福と感じていた。エルムガンドから与えられる、至上の愛だと信じて疑わなかった。
彼女の世界にあるのは、エルムガンドと彼が自らに与えてくれる極上の苦痛、ただそれだけだった。
「ごめんねぇ、フィー?でもあんた、全然才能なかったからさぁ。それに気づく前に死ねて、むしろ幸せなんじゃ
ないのぉ?…クック…アハハハハハ!!」
  



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