ジャミル・レフカンディは、学科の成績こそ惨憺たるものだったが、その戦闘能力においては
聖女騎士団内でも,ルーキーでありながらすでにかなり上位にあるといってよかった。
彼女の所属する第1騎士隊の隊長エリーゼ・アグストリア、副隊長セシリア・ミルディンにも
決してひけはとっていなかった。
そんな彼女であったが、いつも隊長や副隊長から注意されていることがあった。
「あんたはすぐに調子に乗る…悪い癖よ、それ」
「うかつな人間は、どんなに強くても戦場では真っ先に死ぬわよ」
まさにそのとおりだ。先輩たちの言うこと、ちゃんと聞いとけばよかった。
今彼女は、とてつもなくピンチだった。絶体絶命、といってもいい。
途中までは、調子よく行っていたのだ。だが、フィニッシュの方法なんて、考えてたのが
いけなかった。
それまでは獣のような姿で、強さはまったく話にならない。雑魚もいいところだった。
しかしちょっと目を放した隙に、敵はさらなる変化を遂げていた。
「え、ちょっと、2段変化なんて反則…」
言い終わる前に、スライム状に変化した敵は、今までとは段違いのスピードでジャミルの背後に
回り込み、その四肢をことごとく捕らえてしまった。まったく身動きが取れない。
「くっ!このぉ…!!」
必死になって逃れようとするジャミルだったが、まったくの無意味だった。そしてそうしている
うちに、彼女は異変に気づいた。
「…あ、熱い!」
つかまっている部分が、次第に溶け始めていた。これまで数多の敵の攻撃を防いできたその
ミスリルメイルだったが、敵の力はそれを上回っていた。そして、そのぶにょぶにょの気持ち悪い
物体は、彼女の豊満な胸に這い上がってきた。
「ああっ…熱い!熱いーーーーーーーーーーっ!!!」
敵は胸を重点的に攻撃することに決めたらしく、異常なスピードでミスリルメイルの胸の部分が
溶けている。そしてついにはそれを突き破ると、彼女の白い皮膚を真っ赤に火傷させた。
う、うう…こんなところで…私、死ぬ、の、かな…
いやだ、そんなの…ああ…エリーゼ先輩…セシリア先輩…
彼女は遠ざかる意識の中で、燃え盛る炎と美しく流れる水を見た気がした。そして、あたりが
真っ暗になる。
彼女が目覚めたのは、聖女騎士団の兵舎の医務室のベッドだった。
「あ、目が覚めたみたいねジャミル」
「エリーゼ先輩…」
エリーゼの目にはクマができていた。おそらく徹夜で彼女を看病していたのだろう。
「だから言ったでしょう…あんたは、本当に…」
「えへへ…ごめんなさい、セシリア先輩…」
表面上はかなり怒っているように装っているセシリアだったが、涙ぐんでいるのがはっきり
見て取れる。
「まあまあ、セシル、そんな風に言わなくても…」
「あんたが甘やかすからこういうことになるのよ、エリー」
この二人と一緒に戦えるということは、とても幸せなことだとジャミルは思った。
「わっ!?」
「ちょっ、あんた、まだ起きちゃ…」
二人にめがけて思いっきり飛びかかり抱きついたジャミル。
「えへへ〜。いいじゃないですか。」
「もう…」
「しょうがない娘ね…」
なんだかんだ言っても、結局甘やかしてしまう二人だった。
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