自分よりも強い敵と戦う事となり傷を負ったセシリア。どんなときでも冷静さを
欠けることなく努めているセシリアは撤退を考える。負けを認めたわけではない。
次に勝つための撤退だ。と言い聞かせて・・・
 実際彼女の考えは間違いではない。次に同じ相手と戦うときに勝てばそれが
本当の意味での勝利なのだから。 
 しかし、セシリアに、２つの誤算があった。ひとつは、セシリア の負った傷で思考・
行動ともに少しの遅れが生じた事。そしてもうひとつは敵はそれを見逃さなかったこと、である。
 敵は逃げようとこころみたセシリアに初めて自分の能力をつかう。
 「こ・・・これは！！」
　セシリアは敵の恐ろしい能力に驚嘆することとなる。セシリアの足元、それどころか
あたり一面が泥沼に変わってしまったのだ。
 「俺がお前に言うことはただ１つだ。『もがけ！』」
 セシリアは沼から少しでも離れねければと必死に敵から離れようとする。しかし足を進めようと
右足を前に出そうとすると軸足の左足が沈み、沈んだ左足を上げようとすると右足が
沈んでしまう。もがけばもがくほどゆっくりと確実に体は泥の中へ入り込んで行き、
ついには腿の辺りまでぬかるみにはまり込んでしまった。
 「？？」
セシリアははまり込んで動けぬ体にもうひとつの違和感を感じた。
 「足に何か絡み付いてる？」
　泥にはまり込んだ足に絡みついた何かを調べようと不用意に触ろうとした彼女の手に
ギュ ルッと音を立て瞬く間に何かが絡み付く。
 「あ！」と言った時にはもう遅かった。それは体中に絡みつきセシリアの動きを完璧に封じて
しまった。
　(く・・くそっ！なにコレ？・・・藻？)
　声に出そうにも口まで封じられた為に声すら出ない。セシリアが声に出そうとしたとうり、
それは「藻」だった。 気付けば腰の辺りまで沼に沈み、残りはビッシリとはりめぐされた藻に
縛りつけられ動くこともできないセシリアに敵がまた口を 開く。
 「もう一言だけ言ってやる！『沈め！』」
 「ん〜！・・んん！んむ・・」
　言葉の出ないセシリア。きっと敵に何かを叫んでいるつもりだろうが聞き取ることは
皆無である。 すでに胸の辺りまで泥沼に沈んでいる。沈む速度がこころもち速くなったのは
絡みついた藻がセシリアを底(あるかはわからない が)に引き寄せているのだろう。 
必死にもがく顔半分まで沈みきったセシリア。呼吸ができる限界まで沈んだ涙目のセシリアに
敵は情けか陵辱か底に沈む進行を一 時止める。 口に絡みついた藻が外れる。いや、外される。
アゴを必死に出せるところまで押し出して、泥まみれの顔で「お前なんか・・・お 前なんか・・・」と
叫ぶセシリア。三回目の「お前なんか・・・」の途中で「んぶっ！」とまた無理矢理沈められる。
　そして・・・そこには一面の沼だけ残った・・・・

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（文章提供：１４様）