開発室のドアを破り、侵入してきた男たちは5人。
青いスーツにメットをかぶり、その素顔を覗くことは出来ないが、露出した口元
にはどれも下卑た笑みが浮かんでいる。
先手必勝、美希は相手の武器が銃器であることを察すると、一気に飛びかかった。
取り囲まれては不利、その前に銃をさばき、倒す。それこそが活路と判断し、肉
体を躍らせる。


「はぁっ!!」

 ゲキトンファーをロングバトンモードに変形させ、踏み込む。
拳を一番前に立っていた男の水月に叩き込み、ターンすると同時に回し蹴りを放
つ。
ふくよかな太ももが踊り、二人目の男の首筋に浴びせる。

「フッ、ハッ!」

 そして、ゲキトンファーロングバトンモードを振りかざしメットに叩きつける
と共に肘をわき腹に打ちはなつ。

「せやぁぁぁっ!」

 最後の男に、ゲキトンファーロングバトンモードを喉元に突き当てた。
この間、わずか5秒も経たないほどの早業、理を突き詰めた無駄の無い動き、そ
れこそがアブソリュートロジックたる由縁である。
ドウ、と同時に倒れる5人の男。

「ふぅ……確か、ゲキハンマーのプロトタイプがあったはず、それで彼らを縛っ
ておいたほうがいいわね……」

 そうつぶやきながら、歩みを進めた瞬間、ゲキピンクの背後で何かが立ち上が
る気配がする。
振り向いた美希が見たものは、まるで蚊にでもさされたかのように打たれた場所
をポリポリとかく男たちの姿だった。
確実な手ごたえ、それがあったのにこの様子……つまり、敵の装甲は自分の想像
をはるかに上回る。
だが、勇気と共に気力を振り絞ると再度ゲキトンファーを構え、一人の男に突き
こむ。

 メシリ、と音がしてそのロッドは戦闘員の腹部に突き刺さった。

いや、違う。
固い装甲にはさまれ,根は阻まれていた、戦闘員はそのロッドを片手で掴むと一
気にソレを振り上げた。

「ぇ……?」

 美希は自身に何が起きたか理解できなかった。
ゲキトンファーを掴んだまま、自分の体が宙に浮かんでいた。
戦闘員は吊り上げたゲキピンクの体をトンファーに力を込めてぐいっと引き寄せ
る。
そして、自分に近づいてきたそのゲキピンクの体にカウンターのように蹴りを叩
き込む。
フットガードに包まれた足が、ゲキピンクの体にめり込み、その衝撃に吹き飛ん
だ。

「ッアアァァァァァァァーーーーッ!!がはぁっ!!」

 蹴りの衝撃に体が跳ね上がり、天井を背にして仰向けとなった大の字にめり込
むゲキピンク。

「ぁ……あ゙……」

 腹部と、天井に打ちつけた背中をさいなむ痛みに声も出ないゲキピンク。
パラパラと、ゲキピンクの体の隙間から天井のかけらと塵が落ちていく。
マスクの中の瞳は大きく見開かれ、涙があふれこぼれて、ぽたぽたとマスクのゴ
ーグルに水滴が落ちる。
やがて、重力に負けて天井からこぼれ落ちるゲキピンクの体に向け男が飛んだ。
ゲキピンクの頭と尻を掴むと、その間…腹部に膝を押し当てると、地面に落ちる
と共に膝を立て、ゲキピンクに打ち付けた。
みしり……と音がして、鍛えられた腹筋の上に熟した肉の乗った腹部にめりこむ
膝。

「ぅぐぇええええええええっ!!」

 舌を突き出し、白目を向くゲキピンクの体が、くの字にまがる。
内臓がひしゃげる感覚に、のどの奥から何かがこみ上げてくる感覚に吐き気を催
す。

「う……げ、ぇっ!げへぇ……お、おぅぇぇ……っ」

+
 のた打ち回るゲキピンクの体を見下ろす男たち、その顔はどれも笑みが張り付
いていた。美しい物、弱き物を無惨に引きさく快感に喜びを抱いた暗い笑みが…
…。
ゲキピンクのメットを両手で掴み上げる。
「は……放して……」
たった二撃で体力を削られて弱弱しくその手を剥がそうと掴むことしかできない
ゲキピンクの体は、ピンクのスーツに包まれたままだらりと揺れている。
その体を男は放す。

「え……っ」

 重力に従い、落ちていく美希の目に何かが映る。
それは先ほど自分に叩き込まれた膝、それが自分に向かってくる。
そう、自分の顔面めがけて……

「ひ……」

 息を呑むゲキピンクだが、ガードをする暇もなく、顔には膝が、そして、後頭
部には肘が同時に叩き込まれた。
その一撃で、メットには大小無数の亀裂が走った。

「ギャンッ!!!」

 衝撃に美希は絶叫を一声上げるとそのまま気を失う。
だらりと地面に投げ出された体はヒクヒクと痙攣していた、男は気を失ったまま
の美希のメットを掴むと、大きな亀裂に指を入れてはメットの破壊に移っていた。
やがて曝け出される美希の顔。
涙を流し、口元から血を垂れ流す美希、脂汗が浮かんだ頬には何本もの髪が張り
付いている。

「なんだ、ババァじゃねぇか」
「いいじゃないか、十二分に美人だ。というかそれが一番重要、ってことだろ」
「まあそうだな」

 初めて口を開いた男たちの言葉、それはこれから美希に起こる事を告げている
ようだった。
美希の体を抱え上げると、その腹部に叩きつけられる拳。

「げぇうっ!あっがあ、アガっ!ギャウッ!」

 獣じみた悲鳴が響く。血の混じった胃液を撒き散らしながら美希の腹部にめり込
み続ける拳……。

「がはっ!ああ゙っ、アッ、アッ……あああああっ!!」

 永遠とも思われる弱弱しい悲鳴が響き、やがてそれすらも聞こえなくなってい
った。





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