正義のヒロイン                 
 
 
こんなハズは無い。いや、絶対にあってはならない事だった。
私は正義のヒロイン、ゴーオンジャーのゴーオンイエローなのだから。
正義は(悪)を倒す者、悪は(正義)に倒されるモノ。
それは、(当たり前の事)。
それは、(世界の常識)。
それは、(絶対不変の事。)
立場が逆転する事など有るハズが無かった。
(正義のヒロイン)、ゴーオンイエローが、ガイアークなんかにやられるなんて。
                   ・
                   ・
                   ・
それは、蛮機獣に完勝が続いた事が産んだ(油断)だった。
正義のヒロインになれた事を楽しんでいた(楼山 早輝)にとって、勝利は当然の事だった。
(当然)の勝利だから、環境汚染を始めていた蛮機獣に自分一人でも勝てる(ハズ)だった。
偶然、早輝は有害薬物で魚や水鳥が死滅した小川を発見した。そして、汚染を続ける蛮機獣も。
このままでは、川の下流まで全滅してしまう。急いで蛮機獣を(やっつけない)といけない。
すぐさま早輝はゴーオンイエローに変身し、(悪)の蛮機獣に向って行った。
まるで注射器の様な姿をした蛮機獣は、ゴーオンイエローの方を向くと笑ながら言った。
「来たな、ゴーオンジャー!!ん?ゴーオンイエロー、キサマ一人か?」
少し安心した様子にゴーオンイエローは、ムッとした。蛮機獣の(くせに)自分を倒せると思っている。
(こんな生意気なヤツ、私が思い知らせてやるんだから!!)
ゴーオンイエローは蛮機獣に戦いを挑んだ。(五人)ではなく、(たった一人)で。
                    ・
                    ・
                    ・
ゴーオンイエローは蛮機獣に意とも簡単に敗れ、連れさらわれた。
早輝の(想像)とは違い、倒すどころか、リンチ同然にいたぶられて、完全に敗北した。
ゴーオンスーツは余りのダメージに機能が低下し、マスクは大破してゴーグルが破壊されていた。
実は蛮機獣はゴーオンジャーの中でも、小柄でパワーの無さそうなゴーオンイエローを狙っていた。  
ガイアークの三賢者は炎神に追い払われた事を教訓に、先ずゴーオンジャーの排除を優先させ、
炎神達とエンジンオーの脅威を取り除く決定した。その為、ゴーオンジャーをまず一人倒し、
炎神達の合体を不可能にさせる。後は簡単な事だ。それぞれを各個撃破をして行けば良い。
つまり、(簡単に倒せそうな)ゴーオンイエローは標的となっていたのだ。本人の思いとは裏腹に。
ボロボロのゴーオンイエローは、有刺鉄線で全身を磔台に縛り付けられ、手足を打ち付けられていた。
有刺鉄線は機能が低下したスーツを貫いて白い肌を切り刻み、手足を打ち付けられ貫かれた激痛に、
ゴーオンイエローは悲鳴を上げ続けた。その苦痛は全身を責め続け、そのココロを蝕んでいった。
元々、早輝はどこにでも居る、チョット勇気の有る(普通のバイト少女)だった。
あの日、炎神達に見込まれてゴーオンジャーになったが、早輝には(戦う)と云う本当の意味を、
全て理解しては居なかった。(悪をやっつける)程度の認識しかしてはいなかったのだ。
しかし、現実は突然に、残酷に訪れる。ゴーオンイエローは敗北し、敗者には悲惨な運命が待っている。
拷問され無惨な姿にされたゴーオンイエローは震える声で、周囲の戦闘員、ウガッツに懇願した。
(もうやめて。許して下さい。なんでもします。御願いします。)
しかし、ウガッツは無言でピクリとも動こうとはしなかった。磔にされたままのゴーオンイエローを、
ジッと見つめたまま、無言で眺めるだけだった。何度も命乞いを続けるゴーオンイエローを蛮機獣が遮った。
「ゴーオンイエロー、オマエの処分が決まったぞ。喜べ、お前は栄えあるガイアークの実験体になるのだ。」
ゴーオンイエローは愕きのあまり、声を出す事も出来なかった。先程まで(正義のヒロイン)で在った自分が、
今は人間ですら無く、(実験動物)なのだ。早輝は一度だけ、動物実験をバイト先で見てしまった事が有った。
震えながら実験装置に入れられ、悲痛な悲鳴を上げて死んで行く所を。
「残りのゴーオンジャー共を倒す為の実験台だ。その姿のままで殺してやろう。炎神共を恨んで息絶えるが良い。」
恐怖のあまり声も出せず、歯をカタカタと鳴らしてイヤイヤと首を振るゴーオンイエロー。既に(正義のヒロイン)は、
恐怖に震える少女に成り果て、ゴーオンイエローはタダの(実験動物)でしかなかった。
蛮機獣は、逃れようと必死にもがくゴーオンイエローの首筋に無理矢理、注射器の針を突き刺した。
注射針は機能の低下したゴーオンスーツなど簡単に貫き、早輝の体内に有害な液体を注射する。
磔のゴーオンイエローはケモノの様な悲鳴を上げ、もがき続けるが、構わずに内部の液体を注入し続け、
全てを注射し終ると針を抜き、蛮機獣はニヤニヤと笑いながら針を拭いた。
「これは三賢人がブレンドしたエキス。汚染物質や廃液をブレンドし、キサマ等を地獄へ送る特別製だ。
キサマがどうなるか、愉しみだ!良い結果がでたら、炎神共も後から送ってやろう!!」
ゴーオンイエローは、全身の神経をむしり取られる様な激痛に意味の解らない声を上げ、涙を流し苦しみ続けた。
                     ・
                     ・
                     ・
磔のゴーオンイエローの光を失った目が虚空を彷徨っていた。
強烈な有害物質を身体に注射された結果、様々な中毒を引き起こし、同時に全身が急激に腐蝕を始めて
生きたまま腐って行く。既に生きているのか、死んでいるのか、早輝自身にも分らなかった。
磔台からベチャ、と云う音を立てて、ゴーオンイエローが落ちた。
磔台にはゴーオンイエローのグローブとブーツが打ち付けられたまま、ドロッとした腐汁が糸を引いていた。
地面に落ちたゴーオンイエローの身体は、無くなった手首と両ヒザから悪臭を放つドロドロとした腐汁を吹き出し、
見る見る縮んでいった。マスクは頭部ごと腐り落ち、悪臭を放ち転がって逝く。
(正義のヒロイン)ゴーオンイエローは戦いに敗れ、(悪)によって悪臭を放つ腐汁にされてしまった。
早輝の油断は最悪の形で、現れてしまった。一度の敗北が亡骸すら残らない無惨な結果を招いたのだ。
ゴーオンイエローの腐汁は地面を伝い、有害な廃液プールの中に流れ落ちて行った。
結局、(エキス)は機能の低下したゴーオンスーツすら腐蝕させる事は出来なかった。
炎神のパワーを持ったスーツは、ガイアークに負けはしなかった。(悪)に屈する事は無かったのだ。
しかし、ゴーオンイエロー、いや、(楼山 早輝)は最も無惨な姿で(悪)に敗れ去った。 
 
 
 
                                            
           


                        END

 




BACK