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 魏の曹操の子・曹丕の妻である甄姫は、女性でありながら武将として敵方に
恐れられる存在であった。その鬼神のごとき戦いぶりに、いくつもの死体の
山が築かれていった。
 だが、そんな彼女も決して無敵というわけではない。ある戦いで不覚にも
敗れ、囚われの身となってしまった。
 「…殺しなさい」
 彼女は誰よりも誇り高き女性であった。虜囚の辱めを受けるくらいなら、
自ら死を選ぶ。そういう性格であった。
 しかし、敵方にとっては何人もの同胞を殺した怨み重なる相手である。
そうそう簡単に楽にしてやる気など誰にもありはしなかった。
 そこでまずは甄姫に女性としての辱めを行うことになった。しかし…
 「くっ、この、暴れるな!このアマ…!!」
 とても女性とは思えないほど凄まじい力で抵抗を続ける彼女に、彼らは
結局陵辱を諦めざるを得なかった。
 「ならば…」
 せめて散々に女性として汚してやることで怒りをおさめようとしていた
敵方の者たちは、逆に怒りを絶頂まで高めてしまっていた。この怒りを
おさめるには、もはやこれしかない。
 中国史上もっとも残虐な刑の一つと言っていいであろう処刑法…その名は
陵遅刑。
 庶民にとって娯楽などはほとんどなかった時代、罪人の処刑というものは
大変貴重な娯楽であった。故に処刑とは見世物であり、より凄惨かつ残酷な
ものが求められ、また開発された。
 この陵遅刑というのは、公衆の面前で半裸にされた死刑囚が、背の尖った
三角形の木馬に乗せられ、少しづつその身体を切り刻まれていくというもの
である。民衆のリクエストに応えて切る部分を決定したりもした。
 さすがに自分への刑を聞いた瞬間、甄姫は真っ青になり、身体を強張らせた。
恐怖に身がすくんだ。だが、自分は曹丕の妻。恥ずかしい死に方はできない。
彼女は覚悟を決めた。決して悲鳴はあげないと。最期まで抵抗するのだと。  
 「さあ、皆のもの…この女の、どこから斬って欲しい?」
 「口だ!」
 「口か…いいだろう」
 執行人は、まず甄姫の口に刀を当て、その両端を裂いた。裂けたところから、
血が大量にあふれ出てくる。
 「……!!っっ!!………っ!!」
 甄姫は激痛のあまり身をよじらせた。そして、三角の木馬に乗せられているため
股間は激しく傷つけられ、こちらもひどく出血する。
 「ーーーーーーーーーっ!!!」
 激しくもがき苦しむ甄姫だが、皮肉なことに口を裂かれたせいで顔は笑って
いるように見えた。その滑稽な顔が、人々の喝采を浴びる。
 「次は、指だ!」
 次のリクエストに応える執行人。刀で両手両足の指を一本ずつ、丁寧に切っていく。
だが、決して彼は切り落としてはいなかった。骨まで絶ってはいたが、少しだけ
肉を残してまだ全ての指が繋がっていた。この状態でも気を失うほどの激痛だったが
それで終わりではなかった。彼ともう一人の執行人が、それぞれ切れかかった
両手両足の20本の指をつかみ、いっせいに引っ張ったのだ。
 「ーーーーーーーーーっっ!!!」
 20本のすらりと長く伸びた美しい指は、激しい力で一瞬にしてもぎ取られた。
 一瞬気を失いかけた甄姫だったが、誇りがそれをとどめた。ここで気を失っても
無理やりたたき起こされるだけだ。そんなことは恥以外のなんでもない。
 「……」
 「ち…何て女だ。これで悲鳴一つあげやがらねえとは…」
 さすがに執行人たちも焦りはじめていた。何としても、この女の心を、誇りを
砕いてやらなくては、こいつに殺された同胞たちに顔向けができぬ。
こいつが死ぬ前に、何としても悲鳴をあげさせるのだ。哀願の声を出させるのだ。
 そして次は脚を切り落とした。苦しみ悶え涙を流す甄姫だったが、いまだ
悲鳴だけはあげることがない。
 執行人たちは、彼女が決して死なないよう、少しずつ、少しずつ、慎重に甄姫の
美しい身体を切り刻んでいく。
 甄姫にとって、永劫ともいえる永い永い苦しみの刻は、まだまだ終わる気配を
見せてはいなかった…


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