episode:1 アフタースクール・サヴァイバー

雲一つ無い秋晴れの空を舞う、しなやかな肢体。
ふわりと浮いた体は紅白に彩られたバーを軽々と越え、その先にあるクッションに吸い込まれていく。
「1m80cm!流石ね」
金髪碧眼の体育教師アンジェラ・ディアスが、さも自分のことのように得意げに記録を読み上げる。
1人の少女の跳躍が天使学園の校庭にどよめきと歓声を巻き起こす。
抜群のスタイルを体操服とブルマ姿越しに浮き上がらせながら颯爽と佇む少女に
多くの羨望の眼差しが向けられている。

少女の名は坂口暁子。
得意なのはスポーツだけではない。頭脳も明晰でテストとなると常にトップクラスの彼女は
天使学園の生徒会長を務め、まさしく才色兼備・文武両道、
更には面倒見もよく非常に優しい性格で他校の男子生徒からも憧れの的になっているという
完全無欠のスーパー美少女であった。

しかし、それも彼女の本当の姿ではない・・・。

ドズーン

突然の爆音。ビリビリと震える大気。近い。はっと表情を変える暁子とアンジェラ。
「みんな早く校舎の中へ!」
生徒達を校舎内へ避難させ、ふと振り向いたアンジェラの視線の先には
1人残った暁子の姿があった。
2人は視線を交わすと、意を決したように学園の外へと疾駆する。

爆音のした場所へと急ぐ2人の姿は次第に光に包まれていき、光の渦は美しい曳光を描き出す。
燦然と輝けるイオンテイルをたなびかせた2つの箒木星。
それは先程までの女子高生と教師ではなかった。
アンジェラは真紅の甲冑と灰色の翼を身にまとい、天使の大剣を佩いたエンジェリア・ルシフェルへと変身していた。

一方の暁子は長槍を片手に、麗翼はためく淡紅の甲冑に身を包んでいた。

そう、彼女の正体こそ“正義の炎”を心に宿す天使の戦士、エンジェリア・ガブリエルなのだ。

激闘の末、戦いは今日もエンジェリアの勝利に終わった。
しかし、その勝利も一歩間違えれば敵の手に渡るような紙一重の差のものだった。
熾烈を極めていく戦いの連鎖に、果たして出口はあるのだろうか。

激闘の模様はコチラ

放課後。
皆が帰り終わった教室。
窓から差し込む夕日が、整然と並べられた机を赤く染め上げる。
その片隅にたむろする数人の女子生徒たち。
彼女らに囲まれているのはクラスでもいわゆる“いじめられっ子”のレッテルを貼られている
黒部鈴奈であった。

「なんかアンタの陰気が伝染っちゃったみたい。責任取ってよね」
今日も意地悪な同級生たちに絡まれ、因縁をつけられているのであった。とその時、
「責任なら私が取りましょうか?」
暁子だった。
気まずそうにそそくさと退散する女子生徒たち。
「ごめんね。ありがとう、いつも」
「そんな。私達、友達なんだから。困ったときはお互い様って言うでしょ?」
「トモダチ・・・」
茜色に染まる教室の中で育まれる少女2人の友情。
普通の女子高生であれば決して身を置くことはない、自らの生死ひいては世界の命運を賭けた戦場に
身命を捧げる暁子にとって、“普通”の青春の1コマはより一層かけがえのないものに感じられたのだった。

その夜。
天使学園学生寮。暁子の部屋。風呂上りの艶やかに濡れた髪をぬぐっている暁子。
突然鳴り響くケータイの着信音。
『今すぐ近くの公園で会って話がしたい』
鈴奈からのメールだった。
「こんな時間に何だろう・・・?」
胸騒ぎを覚えた暁子は公園へと急いだ。



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